水道水の塩素処理の歴史を知ることで、
塩素やその副生成物が、病気と関連しているのかどうかを知る手がかりとなります。
それでは、本題に入ります。
水道水の塩素消毒が、世界で最初に行われたのは、
19世紀末で、その場所は、イギリスのミッドストーンです。
その後、欧米で水道水の塩素消毒が普及しました。
日本で水道水の塩素消毒が、最初に行われたのは、1921年(大正10年)だそうです。
第2次世界大戦前の日本では、あまり塩素処理をしていませんでした。
この頃の日本では、水道水の原水の汚染が少なかったのですが、
水道水の浄水方法は、ほとんどが緩速濾過法でした。
緩速濾過法は、微生物の力を利用した浄化方式ですが、
病原菌に対して、高い安全性があったそうです。
しかし、水道水の普及率は低く、緩速濾過法の設備がない所がありましたが、
そこでは、腸チフス、赤痢、コレラなどの感染症が時々起きていたそうです。
夏や感染症の流行時には、水道水の塩素処理を行っていたそうですが、
塩素処理を常時行う事は、ほとんどなかったそうです。
そして、第2次世界大戦が終わった後の1946年(昭和21年)に、
GHQ(連合国総司令部)により、
水道水への塩素処理の強化が指示されましたが、その時の浄水場での塩素濃度は、
2.0(mg/l)で、給水栓末での残留塩素濃度は0.4(mg/l)だったそうです。
この濃度は、それまでの日本の塩素濃度の10倍程だったそうです。
この頃から、水道水の塩素処理が常時行われるようになり、
水道水が原因の感染症が大幅に減少したそうです。
その後、高度成長期(1954年〜1973年)の頃から、
水質汚濁が問題になってきました。
生活排水、農業排水、工業排水などの影響で、
日本の水が汚染されるようになり、
また、1960年代後半以降に、水道水の浄水方法が、急速濾過方式へ転換したことで、
浄水場での塩素の投入量が増えていきました。
急速濾過方式は、大量の塩素と薬品を用いた浄化方式です。
日本の水道水の残留塩素濃度は高くなりましたが、
その濃度は、先進諸国の5〜15倍と言われています。
民間による塩素濃度の調査では、
東京で、1.5(mg/l)で、全国でも1.0(mg/l)以上だったそうです(学習研究社 「今、水が危ない」 1992)。
また、東京都の水道局に長く勤務していた小島貞男さんによりますと、
水道水の浄水処理のために、世界で、最も多い塩素を投入したのは、
東京の玉川浄水場だそうです。
小島さんが勤務していた当時は、100(mg/l)となる塩素を投入していたそうです。
世界最高の塩素投入量は、ノルウェーで90(mg/l)の記録があるそうですが、
その量を超えています。
東京都の資料によりますと、最大の塩素投入量は、150(mg/l)という記録があるそうですが、
おそらく世界一だそうです(岩波新書 「水の環境戦略」 1994)。
ところで、1970年にアメリカで、水道水中にトリハロメタンが発見されました。
トリハロメタンは、浄水場での塩素処理に伴い生成される有害物質です。
トリハロメタンは、発がん性や催奇形性が疑われています。
日本でも、1990年代から、トリハロメタンが問題になったそうです。
そして、1993年の12月に、日本水道水質基準が大幅に改正されました。
それで、塩素については、
快適水質項目として、濃度の上限値1.0(mg/l)が設定されました。
また、現在は、塩素に代わる消毒方法について研究されています。
東京の金町浄水場などでは、
オゾンと活性炭を組み合わせた浄水方法が導入されていますが、
塩素の投入量を少なくする方法が模索されているそうです。
また、「緩速濾過方式」を復活させて、微生物の浄化力を利用する新たな浄水場も
地方では現れ始めています。
しかし、近年は、感染症のSARSの流行の影響で、
塩素投入の必要性が見直されているそうです。
また、O−157騒動の影響で、
8(mg/l)の塩素を投入している浄水場が少なくないそうです。
また、世界では依然として、塩素が水道水の一番重要な消毒剤として使われています。
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